Openness について

"不必要なコミュニケーションを制限する"

チームトポロジーを読んでいる。 一環して、逆コンウェイの法則に従うように、つまり理想のシステムアーキテクチャに沿うように組織設計をしようと主張する本である。 チャプター2 で、不必要なコミュニケーションを制限する という節がある。

コンウェイの法則の示す重要な点は、すべてのコミュニケーションとコラボレーションがよいとは限らないということだ。したがって「チームインターフェイス」を定義し、どんな仕事には強力なコラボレーションが必要で、どんな仕事には必要ないのかという期待値を設定することが重要になる。多くの組織はいつでもコミュニケーションは多いほうがよいと考えるが、実際にはそうではない。

必要とされるのは、特定のチーム間における集中的なコミュニケーションだ。予期せぬコミュニケーションを探し、その原因に取り組むことが必要なのだ。

ソフトウェアエンジニアとしては、まあどんなインターフェイスやデータを公開するべきかをしっかり考えて API 設計するって発想はとても自然に感じる。すべてのメソッドや変数がオープンになっていると困るので、情報の流れに制限をかけて、振る舞いを制御する。そういう組織設計も経験的にまったく理にかなっているように感じられる。

一方で、その制限のついたコミュニケーションってものは、組織文化において良く尊ばれる「オープンなカルチャー」みたいなものを阻害したりしないのかな、って疑問が沸いた。その辺をどう整理して整合性をとれば良いか、今回考えたことをまとめる。

オープンなカルチャー

各社の Culture Doc からオープンネスに関する箇所を引用する。

「無私の心」の項目には、「大切な仲間をサポートするために時間を割ける。情報はオープンかつ積極的に共有できる」とあります。私たちは新しくチームに加わる仲間を心から歓迎し、存分に能力を発揮できるようにあらゆる面でサポートします。

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メルカリは相互の信頼関係を大切にしています。信頼を前提にしているからこそ、情報の透明性が保たれ、組織もフラットに構築。メンバーを縛るルールも必要以上に設けていません。一人ひとりの自発的な思考や行動が、個人の成長や組織の強さにつながると信じているからです。私たちは、このカルチャーを“Trust & Openness”と呼び、メルカリらしい人と組織の理想のあり方を追求していきます。

カルチャー | 採用情報 株式会社メルカリ

# 率直、建設的にオープンな場で議論する 誰かがそれを既に知っていたり、同じ検討をしてたり、活用したいかも知れない。集合知のインプットを活用しやすくし、議論のアウトプットを利用しやすくし、議論の組織ROIを最大化する

Ubie Discovery カルチャーガイド (社外公開版)

As One Team チームの成果に集中しよう 人、チームに対し、オープンさを貫こう

10X 採用情報

とまあ、こんな感じだ。

オープンネスは「信頼を育み、成果を最大化するため、意志決定の過程なんかの情報を積極的に公開すること」を示していそうだ。

DACI フレームワーク

ちょっと考えて、DACI フレームワークを使って「不必要なコミュニケーション」と「オープンなカルチャー」みたいなものをつなげられそうだと思った。

DACI フレームワークは意志決定における各人の役割の決め方についてのフレームワークで、関係者を Driver / Approver / Contributors / Informed に割り当て、意志決定を円滑にするためのものだ。 (DACI フレームワークの詳細は、この記事あたりを参照ください)

たぶん、逆コンウェイの法則で整理される「不必要なコミュニケーション」は Driver / Approver / Contributors を最小減にしてコミュニケーションを減らしましょうみたいな話であり、「オープンなカルチャー」で尊ばれる積極的な情報の公開は、Informed な関係者を積極的に広げましょうという話だ。

ということで、両立は可能であるし、またどちらも同時に損なうことも可能である。組織が小さいうちはすべての人が Driver / Approver / Contributors で良いが、組織が大きくなってくるとそうもいかなくなり、誰がどこまで Informed になるかを決めなきゃ行けなくなる。それを決める仕組みが必要になるので、まあそれが Driver / Approver / Contributors は逆コンウェイの法則で、Informed はオープンなカルチャーと呼ばれる何かなんだろう。

まとめ

ソフトウェア設計のアナロジーだと、変数の隠蔽みたいなクローズな情報の発生を連想してしまってナイーブな発想をしてしまったが、ちゃんと考えるとそりゃ違うことを言っているよなという話だった。

情報を公開できる形に整えるのもコストだし、反響に応えるにもコストが掛かる。そのコストに見合うだけの何らかの価値があるとする信念が組織のカルチャーであるのでしょう。やっぱり組織が大きくなるにつれて、伝える情報を制限して混乱を招かないようにしたり人を操作したりするムーブはどうしても増えいく一方なので、オープンという価値観を重視するなら、この辺の情報公開のポリシーやメッセージングについて振り返って考え続けることは大事だ。

なるべくオープンにやっていきたいものだ。