なぜ使われないダッシュボードが作られるかという話

はじめに

最近、ビジネスダッシュボードの設計・実装ガイドブックという書籍が出版された。今まであまりなかった視点から書かれたデータに関する本で面白く読んだ。

作ったダッシュボードの利用が進まず、虚しさを覚えた経験がある人は多いと思う。どうしてそうなってしまうのか、自分の経験を元にまとめたいなと思ったのでまとめる。

なぜ使われないダッシュボードが作られるか

なぜ作られたダッシュボードが使われないかと言うと、基本的にはそのダッシュボードがそんなに必要なものではないからだ(社内周知がうまくない、ツールの使い方がわからない人が多いなどの理由もあったりするがここでは無視する)。 必要のないダッシュボードが作られてしまう状況に関しては、以下の原因があると思うのでそれぞれ考えていく。

  1. ダッシュボードがなぜ必要かの理解が不十分なまま作り始めてしまうから
  2. アウトカムより目に見えるアウトプットに人は安心するから
  3. そもそも人のニーズを捉えたプロダクトを作ることは難しいから

1. ダッシュボードがなぜ必要かの理解が不十分なまま作り始めてしまうから

仕事の中でダッシュボードを利用したことがある人は多く、何らかデータが見たいとなった時にそれをダッシュボード化すると便利かもしれないと思う気持ちがうまれるはわかる。一方、ダッシュボードを利用したことある人と比べダッシュボードを作成したことのある人は少なく、そのなんとなくの感覚のままダッシュボードの作成が決定されてしまうことは多い。しかしながら、ダッシュボードというのはデータの分析・可視化にとっての万能ツールではなく、ダッシュボード化すべき対象や状況というというのは限られるため、希薄な目的意識の元では簡単に無用の長物ができあがってしまう。

この失敗はよく語られているところだが、その対策はなぜダッシュボードが必要なのかを明確にする要求定義フェーズをしっかり設けることだ。ダッシュボードに向かない具体的な状況や要求定義をどう進めるかなどについては、前述の書籍に記載があるので参照すると良い。ダッシュボードというものは一般的に何をするためのもので、あなたがしたいことは何で、そのしたいことのために本当にダッシュボードは必要なのかという話をダッシュボードを作る前にステークホルダーの間でしっかりすると良いだろう。すると、ダッシュボードではなく他の何かで十分満たされることが判明することもあるだろうし、不必要なダッシュボードが作られることは減るはずである。

上で述べたようなケースは、データのスペシャリストがダッシュボード活用の性質を理解して適切に利用者の要求を捌ける前提があることに注意が必要だ。 世の中にはデータチームの中でもそこまで知見がある人ばかりではなく、利用者の要求にそのまま従いダッシュボードを作成してしまうことも多い。まあ失敗しても死ぬわけではないし実務を重ねながら学ぶことも多いだろう。

2. アウトカムより目に見えるアウトプットに人は安心するから

また、ダッシュボードの作成依頼を受けた人に専門知識があった上でダッシュボードの必要性に疑義を感じたとしても、要求者の依頼にそのまま従うような場合も十分にあリえる。

なぜなら、データチームにとってダッシュボードを作ることはそれが仕事の一部であり、人を説得してまで作らないという選択をするよりも作る選択をする方が短期的には安全で楽だからだ。依頼者はもちろんそれが必要だと信じているから依頼をしてくるのであり、自分の考えが伝わらないリスクとか面倒なエンジニアだと思われるリスクをとり何のアウトプットもない状況より、例え使われない可能性があるとしてもダッシュボードを作るという選択をして何かしらアウトプットを得ることを選ぶことは、まあ人間として自然な心情かもしれない。

これは、インセンティブとかジョブセキュリティとかの話かと思う。これを防ぐには、使われないダッシュボードを作ることにペナルティを課すとか、全く評価しないとかアウトプットよりアウトカムを評価する、ダッシュボード作成以外の仕事も増やすようにする、とかが考えられるが、まあ組織的な工夫が必要だろう。

3. そもそも人のニーズを捉えたプロダクトを作ることは難しいから

前述の書籍の内容は、クライアントからお金をもらったプロジェクトの話で、そのようなケースではそもそも重要でないプロジェクトは俎上に上がりにくい。一方で、世の中クリティカルな仕事ばかりではないため、やはりそれが作るべきダッシュボードかを見極める力は重要だ。前述のようにダッシュボードの要求定義をして、作成するエンジニア(あなたや私)がまあその要求は妥当だと思ったとして、実際にそのダッシュボードが利用者に響くものかはわからない。依頼者はただのダッシュボード利用者の代表であり(そうでない場合もある)、依頼者の想定が間違っていることも十分にあり得るからだ。

成功しないスタートアップが世を占めることからわかるように、使われる製品を作るのはとても難しい。ダッシュボードもデータプロダクトの一種である。アウトカムにこだわるなら一般的なプロダウトマネジメントのプロセスに従ってダッシュボードをマネジメントすることを考えても良いかもしれない。

まとめ

以上、なぜ使われないダッシュボードが作られるかという話をしてみた。使われるダッシュボードを作っていきましょう。