クリスティーナ・ウォドキー「OKR」とジョン・ドーア「Measure What Matters」を読んだ

What's this?

去年の8月に現職に就いた際に、組織目標をOKRで管理していることを知りました。 OKRについてのインターネット上の情報などを調べていくうちに、「シンプルかつ具体的で少数の重要な目標に絞る」「野心的な目標を挙げることで成果をストレッチさせる」などのコンセプトが気に入り、その詳細な思想や運用について興味が湧きました。 そこで、クリスティーナ・ウォドキー「OKR」とジョン・ドーアMeasure What Matters」の二冊を読んだので、学んだ点をまとめます。

OKRそのものの概要は以下の記事などを参照してください。

OKRと過去のMBOとの違い

1960年代にはドラッカーが「目標による管理(MBO)」を提唱し各社が導入をしていたそうですが、下記の理由などにより徐々に形骸化していってしまったそうです。

  • 目標の中央集権化による、伝達の遅延
  • 頻繁に更新しないため、状況の停滞
  • 給与や賞与と連動させたことによって、社員がリスクを取らなくなってしまった

これらの問題を受けてOKRは、

  • ボトムアップによる目標管理の推奨
  • 四半期ごとの更新、定期的な見直し
  • 給与や賞与と連動させない

などを基本姿勢としています。

品質保証について

数値目標と品質目標

野心的な目標は得てして品質を犠牲にするので、ジョン・ドーアは数値目標と品質目標を対にする運用も紹介しています。 例えば、新機能を3つリリースするという数値目標に対して、品質保証テストで各機能あたりのバグは5つ以下にする品質目標を対にするなどの例を挙げています。

健康・健全性指標

似たような問題意識があるからか、クリスティーナ・ウォドキーは健康・健全性指標を紹介しています。 ObjectivesとKey Resultsとは別に、失ってはいけないこと、守らなくてはいけないことを、状況に応じて赤色・黄色・青色など適宜評価し続ける方法です。 顧客との関係、コードの安定性、チームの健康などを例に挙げています。

勤務評定と目標管理の関係

OKRの達成度により勤務評定を下すことは、アンチパターンであることをジョン・ドーアは繰り返し述べています。 年に一度の勤務評定の代わりに、下記の継続的パフォーマンス管理(CFR)の導入を推奨しています。

  • 対話(Conversation): パフォーマンス向上を目的に、マネージャとコントリビュータのあいだで行われる真摯で深みのある意見交換。
  • フィードバック(Feedback): プロセスを評価し、将来の改善につなげるための、同僚との双方向あるいはネットワーク型のコミュニケーション
  • 承認(Recognition): 大小さまざまな貢献に対して、しかるべき個人に感謝を伝える。

一方で、勤務評定を目標管理から完全に切り離すべきとまでは主張しておらず、OKRで数字で進捗を測れることの意義についても述べています。

ただし、勤務評定と目標管理は完全に切り離せるとか、切り離すべきだと言っているわけではない。 個人が「何を達成したか」をデータでわかりやすく示すことには、勤務評定の歪みを防ぐ効果もある。 しかもOKRは個人が取り組んでいる最も価値のある仕事を示しているので、次の評価サイクルで信頼性のあるフィードバックをするための材料となる。 ただ、目標が報酬を決めるベースとなったり、悪用されたりすると、従業員は実力を隠すようになる。 守りに入り、驚異的成果を目指して限界に挑戦しなくなる。 そして仕事のやりがいのなさにうんざりする。最も割りを食うのは組織だ。

進捗と評点の違い

通常OKRは目標達成度合いに応じて0.0-1.0の評点が付きますが、ジョン・ドーアは、進捗と評点は厳密に一致する必要はない旨を記しています。

たとえばチームの目標が新規顧客の獲得で、あなた個人の「主要な結果」が50本の電話をかけることだったとする。 結局あなたが見込み客にかけた電話は35本で、そのまま採点すると70%になる。 これは成功だろうか、失敗だろうか。 データだけではよくわからない。 だがかけた電話のうち、10本以上がそれぞれ数時間続き、結局8件の新規顧客を獲得できたら、評価は最高の1.0としてもいいかもしれない。 反対に電話をかけるのをグズグズ先延ばしし、期限間際に35本の電話をかけ、新規顧客は1件しか獲得できなかったなら、パフォーマンスの自己評価は0.25となるかもしれない。 もっと努力できたはずなのだから。

その上で、行動の振り返りが大事であると主張しています。

OKRは本来、行動を重視する。しかしやみくもに行動するだけでは、回し車のハムスターと変わらず、単なる苦行になってしまう。 充足感を得るためにカギとなるのは、野心的な目標を立て、そのほとんどを達成し、足を止めてそれを振り返り、そのうえで新たなサイクルを繰り返すことだ。

コミットする目標と野心的な目標

「Measure What Matters」では巻末にGoogleでのOKRの具体的な運用方法についての記載があり、参考になります。 例えば、GoogleではOKR上で、コミットする目標と野心的な目標を分けて管理しているそうです。 内容としては、

  • コミットする目標は、プロダクトのリリース、経営指標などと結びついている期限内に100%達成する必要がある目標
  • 野心的な目標は、壮大なビジョン、高いリスク、未来志向の発想を反映した目標

という感じで分けて運用しているようです。 それらの区別をつけないことで、コミットすべき目標の未達率が高まる、チームが守りに入るなどの弊害が出ると述べています。

良いOKRのためのリトマステスト

こちらもGoogleの運用例中の記載があった内容ですが、良いOKRを判定するための自問すべき項目が挙げられています。 具体的には下記のような内容です。 全ての項目をクリアする必要はないとは思いますが、OKRを設定する際の参考になります。

  • そのOKRは合理的に考えて、1.0の評定を得ても、エンドユーザーへの直接的価値あるいは経済的恩恵をもたらさない可能性があるか
  • すべてのKRで1.0の評定を得ても、目標の意図が達成されない可能性があるか
  • そのOKRを書くのに5分もかからなかったら、おそらく良いものではない
  • 目標が一行に収まっていないなら、十分簡潔とは言えない
  • KRにチーム内でしか通じない用語が含まれていたら、おそらく良いものではない
  • 具体的日付を使う。すべてのKRの期日が四半期の最終日となっているのは、まともな計画がない証拠だろう
  • 「主要な結果」は必ず測定可能なものにする
  • 指標に曖昧さがないこと
  • OKRに含まれていないが、チームにとって重要な活動(あるいは活動の一部)があれば、OKRを追加する
  • 規模が大きい組織ではOKRを階層式にする

豊富な事例紹介

「OKR」の前半は、架空のスタートアップがOKRを活用したおかげで成功する物語、「Measure What Matters」はインタビュー形式でOKRを導入している各社の活用事例が載っていて、その運用が具体的でわかりやすく紹介されています。

特に、「Measure What Matters」の中で、OKRの父アンディ・グローブインテルにて、8086がモトローラの68000にいかにして対応したかの章が、具体的で臨場感があり面白かったです。 その他にも、

  • ビル&メリンダ・ゲイツ財団のケーススタディ(インタビュー中に具体的に挙げられたOKRは基本原則に即していないように見えますが...)
  • スンダー・ピチャイのインタービューによる、グーグルクロームチームのケーススタディ
  • ユーチューブCEOスーザン・ウォジスキのインタビューによる、ユーチューブのケーススタディ
  • U2のボノのインタービューによる、途上国援助活動ONEのケーススタディ

などが興味深かったです。

個人での運用するとしたら

OKRは組織的に導入することを目的として設計されていますが、個人で使用しても一定の効果はあるでしょう。 会社の評価と関係のない自分個人の四半期目標を用意すると下記のような感じになるでしょうか。

Objectives:

  • エンジニアとして国際的に活躍する、またはそのための下地を作る

Key Results:

  • 週5で30分のオンライン英会話レッスンを受ける
  • TOEFLで100点を取得する
  • international conference で業務で行った活動についての発表を1回する
  • 使用しているOSSにPull Requestを4回投げる

その他

気分を盛り上げる言葉たち

  • 「目的地がどこであるか知らなければ、そこにたどりつくことはできないだろう」- ヨギ・ベラ
  • 「アイデアを思いつくのは簡単。実行がすべてだ」- ジョン・ドーア
  • 「人の真価は、どのような能力があるかより、どのような選択をするかでわかる」 - J・K・ローリング
  • 「最善を善の敵にしてはならない」 - ヴォルテール

アンディ・グローブスタンフォードでの講義動画